M&Aという実際の企業の売買の事例があって、初めて価値が確認されるのです。 M&Aは、株式市場の効率化を助けているのであり、資源配分の最適化に寄与しています。
資本主義経済においては、なくてはならない存在なのです。 ギリギリの人間ドラマ 私は、K銀を辞めて、米国の投資銀行に移って以来、数多くの企業の合併や買収などに携わってきました。
企業合併や買収の現場にいますと、ふだんは見ることができない人間の「ギリギリの姿」に遭遇することがあります。 たとえば日本の大企業の場合、大規模な合併・買収は当然社長が決断します。
ながら、そこに至るまでの条件交渉や、決断後の実行については、企画や戦略、あるいは事業開発担当の役員の仕事になることが多いと言えましょう。 多くの場合、彼らは、会社の中では誰もが認めるエリートで、「報告、連絡、相談」に長けた人たちです。
これまでの長いサラリーマン人生の中で、着実にポイントを上げてきた優等生たちと言えるでしょう。 ただ、したたかな欧米の企業を相手とする合併や買収となると、事情がかなり違ってきます。

減点主義が主流になり、大企業病に陥りかかっている日本企業にとっては正直、対応が難しくなってまいります。 実際に交渉を行なっている役員がエリートであればあるほど、エリートゆえの弱さが露呈してしまうことがあります。
たとえば、時として、交渉をいったん中断して日本に帰るといったことが、交渉のテクニック上、必要になることがあります。 そのような場合、いかに社長の信認の厚いエリート役員であっても「その結果、もし本当に交渉が決裂してしまったら」と右往左往してしまいます。
私が担当したあるM&Aの案件を思い出します。 思ったように交渉が進まず、交渉が決裂寸前になりました。
日本から交渉に臨んできた役員を前にして、私は、海外出張先のホテルで説得したことがあります。 「いったん中断して帰りましよう。
相手はあとで必ずおれてきますよ」 今にも泣き出しそうな役員を相手に、一晩中かけて明け方まで説得しました。 M&Aには、こうした人間ドラマが凝縮されているようなところがあります。
現在でも新聞でM&Aの報道を見るたびに、私は「きっと新聞が書かない幾多の人間ドラマがあったに違いない」と思ってしまいます。 実際、企業を売買するというのは、精神的にも肉体的にも大変な仕事です。
何日間にも及ぶ買収監査やギリギリの交渉が続きます。 合意寸前まで行きながらどうしても乗り越えられない問題が出てきて、ティール(買収案件)そのものが破綻してしまうことも少なくありません。
企業でM&Aの担当役員をI〜2年やって、体を壊してしまった方も何人かいます。 このような困難を伴うがゆえ、実際にM&Aのティールが完成した時の喜びはひとしおです。

自分が係わったティールが本決まりになって翌日の朝刊のトップを飾る時、この時こそが「アドバイザー冥利」を実感できる時と言えましょう。 1980年代のアメリカは、日本企業からの追い上げに遭い、何となく自信をなくしていました。
活性化させた1つの要因がM&Aであると言われています。 1983年から87年にかけての約5年間、私はK銀のシカゴ支店に駐在していました。
米国中西部に所在するアメリカの企業との取引を担当していたのです。 当時の米国中西部は、どういったような状況だったでしょうか。
Hンダがオハイオ州に自動車工場を立ち上げて間もない頃です。 私が訪問したアメリカ企業の中には、それこそ「日本人を見るのは初めてだ」と言った財務担当役員も何人かいました。
ただ自動車の米国工場進出に見られるように、日本企業が躍進しつつある状況はアメリカ人の間でもよく知られていました。 彼らはみな日本人から「日本企業が成功している秘訣」を聞き出そうとしていました。
したがって、当時の私のように、まだ20代の若輩で日本の銀行に勤める青年が突然アポイントを申し入れてきても積極的に受けてもらえました。 1980年代後半から90年代にかけて、アメリカ経済は再び活性化していきます。
これには、当時の経済政策がようやく効を奏し始めたとか、いろいろな事情があるのでしょう。 ただ、私には「成功している日本人から学び取ろう」というアメリカ人の謙虚かつ積極的な姿勢がプラスに働いたように思えます。
もう1つには、M&Aに関する新たな金融手法が開発されて、企業買収が活発化していったことも良い影響を及ぼしたと言えると思います。 このM&Aに関する新たな金融手法とは、LBOと言われるものです。
レバレージドーバイーアウト(Leveraged Buy-outs)の略ですが、要は、企業買収を仕掛ける際に、買収の夕Iゲット企業(被買収先)が上げるキャッシューフローを担保として、資金を調達するのです。 こうすることにより、自らはあまり手金を持たない人たちでも企業買収を手がけられるようになりました。
本来の企業価値は高いのに株価が安目に推移している企業を見つけることさえできれば、さほどの資金力はなくとも買収を仕掛けることができるようになったのです。 金融機関が、被買収先の企業価値(キャッシューフロー)を担保に金を貸してくれるようになったからです。

80年代当時のアメリカ企業の多くは、大企業病に陥っているようなところがたしかにありました。 私は中西部の上場会社を中心に、80社ほどをターゲット先として、連日連夜、企業訪問を繰り広げていました。
したがってそのあたりのところは肌で実感できました。 シカゴの高層ビルに本社を構える、ある会社の財務担当役員の部屋には、川が流れ、小さな滝がありました。
地上100階近くの高層ビルの中に作られた部屋です。 また企業が所有するコーポレートージェットを使って、自分の家の飼い犬を隣の州の有名な獣医に診に連れて行った経営者もいて話題になりました。
「そうした企業を買収して、いい加減な経営者を追い出す。 企業価値を高める」 こう考えた人たちがM&Aを仕掛けていったのです。
その結果、アメリカの大企業はかなり変わっていきました。 CEO(経営責任者)の部屋を訪れると、上着を脱いで、ワイシャツ姿で仕事に没頭している姿が見られるようになったのです。
実際に買収された企業のみならず、普通の企業の経営者までもが「おちしていると買収されてしまう」と考え、必死になって仕事をするようになったのです。 買収カレンシーとしての魅力に乏しい日本企業の株式 「外資による株式交換を使ったM&Aが本格解禁されれば、多くの日本企業が外資の餌食にされてしまう」。
こういった話を聞きます。 逆に、「日本企業も株式交換で外資を傘下に収めればよい」といった話もよく耳にします。

株式交換によるM&Aというのは、どういうものでしょうか。 [コーヒーブレイク]の「後が続かないトラッキングーストック」のGMがEDSを買収した時の話を思い出してください。
GMがEDSを買収するに際しては、2つの方法が考えられました。 1つは、EDSの株主に対して現金を支払ってEDSの株式を売ってもらう方法、いわゆる現金による買収です。
もう1つが、EDSの株主に対してGMが自分の株を交付して、EDSの株と替えてもらう方法です。 この後者のM&Aが、株式交換によるM&Aです。
株式交換によるM&Aに関しては、日本では誤解も多くあるようです。

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